Lens Impression
「アルパブック(豊田茂雄著)」によると、Switarレンズは大きく以下の5つに分類されます。
@Switar 50mm f1.8 5群7枚 1951-1959 製造台数 1,526
AAuto Switar 50mm f1.8 5群7枚 1955-1966 製造台数 5,785
BMacro Switar 50mm f1.8 5群7枚 1958-1969 製造台数 10,329
CMacro Switar 50mm f1.9 5群8枚 1968-1981 製造台数 6,303
DMacro Switar 'Chinon' 50mm f1.9 5群8枚 1982-1989 製造台数 83
これらの中で何度レンズ構成の変更が行われたのかは不明ですが、Bの50mmf1.8の中には5群8枚のものがあるという情報もあり、製造期間も重複していることから、いくつかのバリエーションが混在していることは間違いないでしょう。
ちなみに自己所有の50mmf1.8は反射面が前群7か所、後群5か所、今回使用した50mmf1.9は反射面が前群5か所、後群8か所でしたので、掲示している構成図通りと思われます。
f1.8レンズからf1.9レンズへの変更が行われた理由について明確な資料はありませんが、両レンズの描写の差異、レンズ構成図の差異から推測できるのは、@新規ガラス採用の可能性、Aそれに伴うレンズ曲率の緩和による周辺描写の改善、などでしょうか?製造コストの削減も考えられますが、実際のところはよくわかりません。
実に美しいレンズだと思います。その描写にも負けていないでしょう。f1.8の鏡胴にはシルバーのものが多い(シルバー:ブラック=9:1)のですが、f1.9はすべてブラックで作られています。このレンズが装着されたAlpa
Alneaのボディなどはため息が出ますね。
描写はf1.8のものに比較すると、とても素直ですっきりしています。滲みレンズ好きとしてはそこがちょっと不満な点でもありますが、レンズのせいにするのはやめましょう。
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なぜf1.8はf1.9に切り替えられたのか?
残念だが、表題に関する答えは現時点では見つかっていない。@カラー再現のための改良説、A一部硝材が使えなくなった説、Bコストダウン説(硝材の低価格化含む)、などの指摘はされているのだが、確定はされていないようである。
企業の立場で考えると、最も可能性があるのは、最新技術の導入によって描写の改善を図るとともに、コストダウンも達成するということである。しかし、マクロスイターの製造本数はf1.8(シルバー)が9,173本、f1.8(ブラック)が1,146本、f1.9(ブラックのみ)が6,303本とされており、この本数でどこまで生産効率や生産コストの見直しを目的とした再投資が効果があったのかどうかは疑わしい。むしろレンズ性能・機能そのもの工夫という面が大きいと思われる。
両レンズは重量、絞り羽数、最短撮影距離などほとんど同じであるが、差がある部分を比較するとなんとなく改良点が見えてくる。
まずコーティングだが、両方ともオレンジ系が主であるが、f1.9には紫の反射が追加されている。これにより透過率の向上を図ったものと考えられる。
次はレンズ構成である。f1.9のほうが1枚ガラスが多いためコスト高にも思えるが、両レンズを比較して気づくのは前・中群の各レンズの曲率の違いである。f1.9のほうが曲率が緩やかになっており、さらに反射面が一つ多いことを含め、より改善された収差コントロールが行われていることがうかがえる。ロンキーテストでの評価でも、f1.8には少し「無理をした」部分もなんとなくうかがえる。
開放f値の変更は明らかな改悪であるが、おそらくこれも描写の総合的見直しとコスト面から導き出された結論ではないかと思う。光学特性は後述するが、f1.9のコントラスト・解像力は曲率・枚数の変更などから、中心部で極めて高く、ボケも素直。一方最周辺でf1.8レンズ以上に大幅に下落するからである。
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